日本サッカー協会(JFA)は、サッカーやスポーツの現場で顕在化する様々な差別や暴力に断固反対し、差別や暴力のない世界をつくるべくさまざまな取り組みを行っています。
毎年「JFAリスペクトフェアプレーデイズ」を9月上旬に開催しており、期間中は、さまざまな活動を通して、リスペクト(大切に思うこと)、フェアプレー精神を共有し、差別や暴力に断固反対するメッセージを広く伝えています。
今回は、安心・安全なスポーツ環境を提供する上でとても重要な立場にある指導者が、昨今サッカー界でも話題になることの多いハラスメントについて正しく理解し、選手や審判員に対して適切な指導を行えるよう、スポーツハラスメントの基本的な知識はもとよりコミュニケーションの本質までも理解・考察を行い、指導者及び審判指導者の学ぶ機会の一つとして開催しました。
審判指導者だけではなく、技術指導者の方とグループディスカッションを行う形で開催しましたが、参加者はお互いの立場を理解した上で真剣なディスカッションを行っていました。
今後もよりよいサッカー環境をつくっていくためにもそれぞれの立場で取り組んでいきたいと思います。
講師コメント
山本健太さん(レイ法律事務所)
昨今、国内のニュースでも注目度が高く、また世界規模で対応が行われてきているスポーツハラスメントの問題について研修を実施させていただきました。
今回の研修では、まず、スポーツハラスメントの本質が「もっと上手くなってほしい」という熱量にあることについて触れ、誰もがスポーツハラスメントの当事者になる可能性があることを受講者の方々にご認識いただいた上で、次に、アウトな指導とセーフな指導の線引きはどこになるのかということを受講者の方々が自分で判断できるようになるための知識の習得とそれを実際に使って事例を考えてみるということを行いました。研修の中ではグループディスカッションも取り入れ、受講者の方々には普段交流することのない方々との交流の中で自分の意見・考えを述べ、また様々な意見・考え方に触れていただくことで、指導についてより深く考えてみるという経験もしていただきました。実際に、グループディスカッションでは大変活発な議論が行われており、私自身興味深く拝聴させていただきました。
今回の研修では、その他にも、スポーツハラスメント問題の大きなポイントであるコミュニケーションに関してのお話もさせていただきました。
受講者の皆様には、是非、今回学んだ知識や経験をご自身のチームや団体に持ち帰り、周りの方々にも広めていっていただければ嬉しく思います。
スポーツハラスメントの撲滅のためには、定期的な研修会の実施の他、指導者に限らず指導を受ける立場の方々を含め様々な関係者にも正しいスポーツハラスメントに関する知識を知っていただくことが大切だと思っておりますので、引き続きこのような取り組みを進めていっていただければと思います。
受講者コメント
三宅毅 1級審判インストラクター(大阪府サッカー協会)
常日頃からサッカー審判員の指導については、情熱を持ってやっているとは思っていますが、それが自己満足に陥っていないだろうか。熱意をはき違えて審判員に厳しい言動で接していないだろうか。という不安を常に感じていますが、改めてこの講習を受講して、自分自身の考え方に甘さがあることを実感しました。今日受講したハラスメントの本質、判断基準、コミュニケーションの考え方などの成果を今後の審判員指導に生かしていきたいと思います。
浅井昭子 1級審判インストラクター(神奈川県サッカー協会)
今回、スポーツハラスメントについて正しい知識を学びたいと思い参加しました。審判指導者だけではなく、チームで指導をしている方々との受講はとても興味がありました。グループワークでは立場が違う中で共感することが多く、昔の話などを含めて和やかな雰囲気で進みました。山本さんの講義は内容が分かりやすく、穏やかな話し方でテンポよく参加者の意見を引きだしてくれました。
講義では、指導者が願うところと選手のモチベーションとの熱量の違い、ギャップの差を埋める時にハラスメントが起こりやすく、誰もが当事者になる可能性がある。指導の適正な範囲を超えた「必要がない、やりすぎ」がパワハラの争点で、グレーゾーンが残ることにも十分理解ができました。人それぞれが言葉や態度を受け止める時のルール「行動解釈基準」を持っており、それは環境や経験、相手との関係性、体調・モチベーションから成り立っている。一方的に押しつけるコミュニケーションにならないために、相手は他者であり、予測不可能な存在であることを自覚することが必要だと学びました。指導者が正しい認識を持ち、客観的にどのように受け取られるのか理解する必要があります。
今回の講義を受講して、これからの審判指導に行動解釈基準を意識しながら、双方向の効果的な指導に取り組んでいきたいと思います。
阿部直樹 3級審判インストラクター(東京都サッカー協会)
この分野に長けているスペシャリストから学んだこともあり、あっという間に感じました。特に印象に残ったことは、「指導者のこうあって欲しいなどの目標想いと選手との間の熱量の差をコミュニケーションで埋めることが大切。」ということ。さらに、「この指導が適正な範囲を超えているのかどうかが分かれ道」ということです。感じていたことではありますが、改めて整理されました。また、コミュニケーションで気をつけることとして、「相手が他者である自覚」をもち、相手の行為解釈基準を観察して知り、自分の行為解釈基準を自己分析し、そして、「共通の行為解釈基準をつくる」ことが大切であると改めて定義として整理することができました。また、普段の仕事の中では学べないことをこれらの研修で学び、審判インストラクターとしての質を上げていきたいと思います。ありがとうございました。
伊東洋 3級審判インストラクター(千葉県サッカー協会)
今回の研修のテーマである「ハラスメント」、昨今耳にすることの多い言葉だと思います。しかし、その内容をどれくらい理解してるか?となると非常に曖昧な知識しか持ち合わせていませんでした。
専門知識の豊富な講師の方の非常に分かりやすく丁寧な講義で、今まで認識がなかったり曖昧な部分の多くがクリアになり、今の時代には絶対に必要な知識であると強く感じました。
また普段なかなか関われない技術側の指導者の皆さんとのやり取りは、普段審判側の関わりしかない私にとって新たな刺激を受けることができたのも大きな収穫でした。
今回の学びをこれからの指導に生かすと共に、変わり行く時代に取り残されないよう知識のブラッシュアップができるような活動をしていきたいと思います。
高野晶久 3級審判インストラクター(埼玉県サッカー協会)
仕事に限らず、ハラスメントについては学ぶべき事柄があると思ったので参加させていただきました。自分自身の指導を振り返るとき、耳の痛い部分もありました。しかし今後、自身の指導者としての、また審判指導者としての選手や、若手の審判員に対する接し方を改めて考える良い機会となりました。
山下浩司さん(北海道サッカー協会)
昨今の風潮で指導のし辛さを感じていたことは事実です。今回の研修では、何でもかんでもハラスメントになるわけではなく、指導の適正な範囲を超えることが基準なのだと理解でき、参加してクリアになりました。サッカーの指導の場だけではなく、生活の各場面でも今回の研修を意識していきたいです。ありがとうございました。
池村基弘さん(静岡県サッカー協会)
ハラスメントがなぜ起こるのかという最初の問いについて、改めて言語化できてとてもよかった。その中で、ギャップ(熱量)の差を埋めるコミュニケーションの問題というところから、コミュニケーションとは?のチャプターところがとてもよく理解できました。相手の行為解釈基準を知り、自分の行為解釈基準を理解し、共通の行為解釈基準を作ること。一方的な伝達行為ではなく相互行為であること。私も常日頃から、コミュニケーションによって、相手の状況を理解するところから入り、相互で納得できる双方向でのコミュニケーションを心がけていますが、基準の違いをもっと理解して、自分も分析やアップデートしていかなければいけないと感じました。途中のグループディスカッションでも様々な基準の違いからの考えや意見を聞けて、とても勉強になりました。ソジハラについても詳しく知らなかったので、学べてよかったです。下ネタや冗談、からかいなど日常的にもよくある話だと思うが、指導や相談でも気をつける、やってはいけない行為と認識しました。非常に有意義な講義と内容でした。
塩崎剛さん(東京都サッカー協会)
何がハラスメントで何がハラスメントではないか?との具体的な事例や提示を探してきましたがありません。明確な基準がないまま、自身の価値観とチーム内にある伝統的な慣習で判断をしている指導者もいます。講義内容にもありましたが、ベテランや若手コーチの優位性のなかで、やりすぎ、間違っているのではないか?との軌道修正をするのも難しい場合があります。今回の講義は、専門の弁護士による、今の基準を示していただいたわけで、これをチーム内に共有することで、改善の道の一歩を踏み出せる、私が求めているものでした。私自身は、少年チームの代表・監督であり、また市少年部では審判部長の立場をいただいています。子どもたちのサッカー環境を守るため、指導者や審判員が健全に楽しく務めるためにも、今回の内容を市内チームに共有できるよう努めてまいりたいと思います。