FIFAビーチサッカーワールドカップロシア2021(8月19日~29日)に波多野祐一ビーチサッカー国際審判員が、FIFAフットサルワールドカップリトアニア2021(9月12日~10月3日)には、小崎知広フットサル国際審判員と松崎康弘FIFAインストラクターが参加した。それぞれに各大会の振り返りや大会で得られた収穫や課題について聞いた。
※本記事はJFAnews2021年12月に掲載されたものです
FIFAワールドカップに参加した審判員 FIFAビーチサッカーワールドカップロシア2021~審判の報告 vol.1 波多野祐一ビーチサッカー国際審判員インタビュー
FIFAワールドカップに参加した審判員 FIFAフットサルワールドカップリトアニア2021~審判の報告 vol.2 小崎知広フットサル国際審判員インタビュー
大会の1年4カ月前から準備に奔走した
今大会にはFIFAフットサル審判インストラクターとして審判員への指導やサポート全般に関わりました。
今大会に向けた活動は2020年6月から始まり、FIFAの審判委員会の中に設置されたフットサルエキスパートパネルで毎週、オンライン会議を行い、準備や競技規則の改正のほか、今大会に向けてどのように審判員を選び、教育するかといった内容について議論を重ねました。大会の約8カ月前に審判員のラージグループの76人(大会には36人が選出された)を選び、月に1回くらいの頻度で研修を重ねてきました。今大会ではビデオサポート(VS)という新しい試みがあったので、大会に参加する審判員には8月末に現地に来てもらいました。審判専用の体育館を用意してもらい、そこにVSのシステムを入れて指導したのですが、これが非常に効果的でした。
開幕後は審判員のアセスメント(評価)が主な業務でした。担当する二つの会場のうちどちらかの試合を見て審判員のアセスメントをするとともに、ピッチ内で起こったさまざまな事象を抽出していきました。試合翌日の朝にはそれらの事象の中から何をピックアップし、どう解釈すべきかという会議を行い、そこで話し合ったものをデブリーフィング(報告会)で伝えます。
今大会ではVSの導入によってカメラの台数が22台と大幅に増え、事象や判定そのものだけでなく、そこに至るまでのバックグラウンド、選手とのコミュニケーションや雰囲気など、把握できる部分がこれまでの大会に比べて大幅に増えました。そのおかげでより緻密な指導ができるようになりました。
フットサルはピッチが小さく、攻守の切り替えがスピーディーで、多くの接触があるなどの特徴があります。そういったサッカーとの違いがより鮮明に分かるようになったことも、カメラの台数が増えた影響だと思います。
メリットが大きかったVS今後は各国導入を促す
VSの導入に加え、審判員も主審、第2審判、第3審判に加えてリザーブアシスタントレフェリー(RAR)という4人目の審判員を導入しました。第3審判やRARがベンチやプレーとは反対側のゴールを見ることによって主審と第2審判のポジショニングが大きく変わり、それぞれがプレーをより近いところで見られるようになりました。また、スピーディーな展開にも対応できるようになりましたし、カウンターに対しては第3審判とRARが対応するので、非常にシステマティックになったと思います。
チームからチャレンジがあった事象などを、VSを用いて何度も繰り返して検証するため、ジャッジの精度がより高くなり、選手や監督はそこで出た判定に対してほぼ納得してくれます。ただ、納得できない部分があるのも事実です。審判員が自分の判定に固執し、不満が爆発することもありました。
主審と第2審判の2人だけで映像を確認するので、サッカーのビデオアシスタントレフェリー(VAR)と比べるとどうしても精度は低くなりますが、仮にカメラの台数が少なくても各国リーグで導入すべきだと思いました。ピッチ近くにモニターを設置、オペレーターの派遣など課題はありますが、映像で確認すれば選手や監督への納得感をもたらすこともできますし、フットサル環境のより良い整備のためにもワールドカップだけのシステムにしないことが重要だと思います。
今大会で初めて導入されたビデオサポート。時間をあまりかけることなく、判定精度を大きく向上させた