選手が負傷で転倒。なかなか立ち上がらないのを見た相手選手がボールをピッチの外にけり出す。レフェリーとドクターが対応後、負傷した選手のチームメイトがスローインでボールを相手に返す。そして、観客を含めたスタジアム全体が拍手でいっぱい。あるいは、負傷した選手に手を差し伸べ、差し伸べられた手に呼応して身体を起こす。サッカーでは「当たり前の光景」だ。リスペクト(大切に思うこと)やリスペクトあるフェアプレーは、日本サッカーのいたるところで見ることができる。
しかし、全てが全てとはいかない。心ない暴力、暴言、差別、いじめがまだまだ報告される。なぜなのかと頭を抱えてしまう。だからこそ、リスペクト(大切に思うこと)が今以上にサッカーやスポーツに溢れ、こぼれるほどになるように、もう一歩、二歩と進み出したい。
慣れ親しんでいたため、寂しくも感じるが、リスペクトのロゴを変更した。「RESPECT」という英文字の下に、われわれ日本のサッカーが訳した「大切に思うこと」を付け、リスペクトの考え方が誰にでも分かるようにした。リスペクト(大切に思うこと)には境界がない。サッカーという出発点からさまざまなフィールドでこの考えが広まる。「大切に思うこと」が地平線の先のどこまでも広がっていく想い、またその様相のデザインである。
新しいロゴは試合会場などのサッカー現場のみならず、順次日本のサッカーに広く拡散していく。新しいロゴは、広く使用可能である。例えば、各都道府県サッカー協会(FA)がFAのロゴとリスペクトのロゴを一緒にした(コンポジットした)独自のロゴを使用することもできる。各FAのみならず、各連盟やリーグ、またチームであってもコンポジットロゴの下、リスペクトある行動やプレーを行う。引き続き、審判員も審判服にロゴを付ける。また、選手もだ。サッカー競技規則が改正され、「サッカーの試合やリスペクト、高潔性の促進を主唱するスローガンやエンブレム」の着用が認められたのだ。選手のユニフォーム上に付けることも可能になった。選手としての気持ちがピッチ上でも表現できてうれしいとの声が聞こえる。すでにヨーロッパサッカー連盟(UEFA)では、選手がリスペクトを着用している。多くの皆さんに着用していただけることを熱望する。
このロゴの下、サッカーに関わる誰もがリスペクト・フェアプレーへの行動を誓ってくれる。リスペクト(大切に思うこと)、そしてリスペクトある真のフェアプレーがオン・ザ・ピッチ、オフ・ザ・ピッチで溢れこぼれている。リスペクトある美しく楽しいサッカーが、私たちの日常を豊かにしてくれる。
そして、グリーンカード。リスペクトある真のフェアプレーのために必要なもう一つのすてきな考え方である。リスペクトのロゴと共に楽しく美しいサッカーを推進してくれる。グリーンカードは、フィンランドで行われていた事例を参考にし、2004年に導入した。
「チームとして共に努力する」「フィールド上で互いに助け合う」「常にフェアプレーを示す」「良いスポーツマンシップを示す」「怪我をした者を助け、共感を示す」「敗者も勝者もたたえる」「対戦相手、チームオフィシャル、レフェリーを大切に思う」など、さまざまなリスペクトあるプレーや行動にグリーンカードが示される。アジアサッカー連盟(AFC)でも、12歳以下の試合を用いたグリーンカード推進のビデオが流されていた。
日本人は良い点を見つけるのが得意ではないと言われる。どうしても、ミスばかりに目がいってしまい、それをどのように矯正するかに頭がいっぱいになる。良い行為に気付かなかったり、お仕着せのようにグリーンカードを乱発したりする。どうしてここでカードを出さないのか。あるいは、誰かに言われたがのごとく、試合後、形だけでチームにグリーンカードを示している。そんなふうに感じられることも少なくない。
グリーンカードで子どもたちを褒めてあげようということではない。そのプレーが、その行動が称賛に値する、感謝したいと感じたならば、グリーンカードを示せば良い。
U-12の試合は、ユースレフェリーが審判を務めることが多い。恥ずかしいのか、あるいは先輩に言われた通りといった出し方もあり、ぎこちなさが残る(初々しくてすばらしく、微笑んでしまうこともあるが)。試合には、経験ある年長の審判アセッサーや審判インストラクターが派遣される。お子さんのいらっしゃる方も多いだろう。子どもたちが今どのように感じ、どのように行動するのか、機微をも含めて察することができるだろう。小学校の低学年の子どもたちならば、コーチに言われた通りのフェアプレーをするのかもしれない。それも良い。高学年であれば、大切に思う気持ちのない、形だけのフェアプレーには感謝しずらい。そんなことも含め、若いレフェリーに一つ一つアドバイスしたらどうだろう。
同じく、マッチ・ウェルフェアオフィサー。決して、指導者だけに気付きを伝えるオフィサーではない。試合が安全に快適に行われ、楽しくサッカーがプレーできること。その推進役である。若いレフェリーは、気付きをもらって大きく成長する。そして、正しくフェアなプレーや行動を評価し、感謝の気持ちを持ってグリーンカードを示す。
報告者:松崎康弘(JFAリスペクト・フェアプレー前委員長)
※このコラムは、公益財団法人日本サッカー協会『テクニカルニュース』2019年9月号より転載しています。